Ⅲ章： 「サボテン」の少年　

　「体のかゆみとイライラを絵に描いてみて。かゆみとイライラは何色かな？」。患者は12歳の少年で、広範囲発達障害の診断を受けていました。不登校を経て進学校に合格したばかり。能力に大きなムラがあり、あらゆる事に敏感で引きこもりがち。お母さんからの聞き取りではそちらの方が問題でした。ただし本人による主訴はアトピーのかゆみと爪を噛むこと。そして初診時の彼は、何を聞いてもほぼ無言のままでした。そこで私はカラーペンを見せ、彼に選んでもらいました。様々な色の中から、彼は濃い青緑色を選びました。次に私は白い紙を出し、丸・螺旋・星・放射状・雲・波・ギザギザ・点々・線などシンプルなパターンを沢山描いてみせました。「この中から選ぶとしたらどれだと思う？」。長い沈黙の後、少年は星の形を一つ描き、その後それを無数に増やし、青緑色の星の塊りを力強く素早く描き上げました。