ホメオパシークリニック芦屋

Photo by Megumi Tanaka

Introduction

イントロダクション

ホメオパシークリニック芦屋へようこそ

 “Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
「健康とは、身体的、精神的、霊的(スピリチュアル)、社会福祉的に完全に満たされた動的な状態であり、単に病気や病弱がないことではない」

 これは1998年のWHO憲章における「健康の定義」改正案です。下線部分が議論の的になり一旦採択され、翌年の再審議で見送られました。けれども生命を取り扱う標準医療が機械論に陥らない為、この視点を持ち続けるのは健全だと思われます。それは統合医療の立場に与する医師の私が、クラシカル・ホメオパシーを学ぶに至った動機でもあります。

 ところで「霊的(スピリチュアル)」とは、何を意味しているのでしょう?ホメオパシーでは「生命エネルギー」を扱う事かと思います。創始者ハーネマンはこの存在を仮定して「ヴァイタル・フォースVital Force」と名付けました。いわゆる「生気論Vitalism」の流れを汲み、「科学的には未だ検証されていない、生命現象を司るエネルギーが存在する」と想定し、まずそれを整え賦活化すれば心身は自ずと回復に向かう、と説きました。

 「生命エネルギー」の概念は世界中の伝承医療にみられます。古代ギリシャのユナニ医学、インド発祥のヨーガやアーユルヴェーダを源流に、分岐したチベット医学・中医学においても似た概念があります。それらは「プラーナ」「ルン」「気」等と呼ばれ、現代でもポピュラーな用語です。何れの医療でもこれら「生命エネルギー」の調整を基盤とします。元素の組合せで体質を表現するなど、「エネルギー」の性質は抽象化されています。

 これらと比してホメオパシーの扱う「生命エネルギー」には際立った特色があります。人に流れる「生命エネルギー」の性質は、自然界に存在する凡ゆるものの内の何かの性質と「似ている」とするのです。それは動植物など生物のごく細分化された種であったり、鉱物や電磁波のような非生物であったりします。何であれ高度に組織化されたパターンを持つものと、人の「生命エネルギー」の間に、複雑系どうしの類似性を見出すのです。

 人は「生命エネルギー」の性質を病気の「症状」をはじめ様々な「個性」で表します。カウンセリングではそれらについて観察し、深く詳しく聴き取ります。病人の「個性」の全体像と「似ている」性質のものを選び、適切な方法で与えれば「症状」は癒やされる。これがこの療法の原理であり、ハーネマンの時代から200年余に渡り、幾多のホメオパスによって再現・検証されてきた経験則でもあります。

 私の用いるメソッドのカウンセリングでは、ご自身と「最も似たもの」を、患者さまが擬態して示されるケースがあります。通訳のように特徴を語り出されることもあります。その場を共有する際、何かしら荘厳な心持ちになります。これを記録し多くの方に伝え、人とは一体どういうものなのか、共に考えたいと切に想うのです。

 これらのケースの経験と観察系の瞑想など他領域の知見を合わせ、『「私」とは何か?』について考察してみました。ZINE「ホメオパシー通信10号」で詳細を綴っていますが、ここではそのさわりをお伝えしてみます。

 人はみな何かを「表現」したいようなのです。誰でも無意識に欲しています。何を「表現」したいのかと言えば、「通常は認知されない己の正体のようなもの」についてです。ソレは前述した「生命エネルギー」なのですが、あたかも別の生命体の宿るが如く複雑なパターンを持っています。自然界の何らかのものの性質を秘めた力が、人の心身に流れ動かしているのです。この「エネルギー」=(私)と呼んでみます。

 ソレは目に見えず、はっきり正体を明かさない代りに、人の心身の特徴・性質・感受性・嗜好・選択・関係性・仕事・作品など生き方全般に反映され、密やかに「表現」しています。人は言葉の世界で生きているので、ソレの「エネルギー」パターンを言葉に変換し、自分と世界の見方を創り出します。これを「自己」=「私」と呼んでみます。

 さて生きていればストレスはかかります。ストレス超過になればソレは激しく乱れ出し、それを解消しようと「表現」は大きくなります。乱れは(私)から「私」に伝わるのです。性格は極端に、感覚は過敏に、偏見は強まり、奇妙な言動や心身の「症状」が現れ出します。柔軟性が欠け、周囲と不調和を生んだりします。これらのサインに気づき早めに対処すれば未病レベルで済み易く、気づかず長期に抑圧すると発病するなど、予後に影響が出ます。

 ですからソレに気づくのが大事なのです。自分自身では少し難しい。姿を鏡に写すように、他者を通して観ると、より気づき易くなるのです。その一つがカウンセリングです。感受性の強い人なら、誘導されて言葉の交換をするうちに、「気づき」=<私>が起動し始めます。「私」の話をしていた筈が、いつしか<私>による(私)の観察について語りだしています。ソレの特徴について、繰り返される言葉(動詞や形容詞など)や、力強い動きで表すのです。

「気づき」=<私>が、
「エネルギー」=(私)を観て、
「自己」=「私」が表し、伝える。

これらはひとつのものとして、人の心と体に通底し、機能しているようなのです。

 特徴をきちんと伝えられたなら、ソレは次第に凪いでいきます。またソレの正体である、「最も似たもの」が見つかり対処できたなら、本質的な癒しにも繋がります。冒頭の定義を再考すれば、まず「霊的(スピリチュアル)」な状態から「動的」になって整うと、「身体的」「精神的」に健康な状態は自ずと波及するのではないでしょうか。

2023年立春

ホメオパシークリニック芦屋
田中めぐみ