ホメオパシークリニック芦屋
ご提言
本邦において、ホメオパシーは医療行為として認可されておりません。そしてレメディーは薬事法的な薬剤ではありません。ホメオパシーはCAM(Complimentary and Alternative Medicine補完代替医療)に該当するセラピーの一種です。約200年の歴史を持つ西洋発の伝統医療に属します。
CAMには鍼灸・アーユルヴェーダなど、古来からある東洋の伝統医療も含まれます。伝統医療に対しては、しばしばEvidence―科学的解明が問われます。共通項としては長い歴史上、膨大な肯定的臨床データがあることです。これらをどう解釈するべきでしょう?
いわゆるEBM(Evidence-based medicine)に関して、アメリカのUS Preventive Services Task ForceやイギリスのNHS(National Health Service)は、ランク付けをしています。RCT(Randomized Controlled Trial)の結果だけでなく、臨床報告や権威筋からの見解もまた、或るレベルのEvidenceとして認めているようです。
つまり欧米では、EvidenceとScientific Evidenceは同一視されていないのです。精神分析などに照らすとRCTを試験として採用することが適切でない、という意見もあります。私自身医師として、医療には再現可能性が必要で、論理的整合性とデータ解析は不可欠だと考えます。一方で科学的検証の限界という問題もあります。現行医療も歴史的にはまず現象の観察結果ありきで、時を経て検証を続け構築された体系ではないでしょうか。
さて近年スイス政府は、保健医療行政に関する国策上、ホメオパシーを含む数種のCAMについてEvidence究明にあたりました。あらゆる角度から統計学的調査を行い、まとめ報告を出したのです。このレポートはドイツの学術的出版社 Springer社 から出版され、英訳版「Homeopathy in Healthcare」(2011年)も刊行されました。レポートではホメオパシーにとって肯定的な結果が出ています。これは関係者にとって朗報でした。ただし、もっぱら適切な方法論を採用した場合に限られる、と明示されています。
このレポートについては、本邦在住のクラシカル・ホメオパスであり統計学の学者でありBiometricianでもある Myriam Müller 女史の協力を得て、私自らその邦訳を行いました。以下にその要旨のみ列挙します。ご関心のある方は、現在e-bookでの購読も可能ですのでどうぞご精読ください。
多くの諸外国同様、スイスにおいてはCAM(補完代替医療)に関する需要・利用・および理解度が高い。しかしまた、CAMは有効でなく有害であるという懸念もある。それを受けてスイス政府は1998年より5年間にわたり暫定的に、人智学(シュタイナー医学)・ホメオパシー・中医学・フィトセラピー(植物療法)・ニューラルセラピーを、自国の健康保険制度に組み入れた。さらに同政府は上記のCAMに関する評価プログラムを設定した。
彼らはホメオパシーの有効性・臨床実績・妥当性・安全性・経済性について検証し、2006年11月、ドイツ語でそれを出版した。このレポートの英語版は、物議を醸したShang 達の 論文(5.3章参照)に再考察が加えられる形で部分改訂され、2011年11月に出版された。
従来的評価法と異なり、このHTA(健康技術評価)レポートには、統計学的調査法のみならず、観察的調査法・改善事例・縦断的コホート調査法を含んでいる。従って、このレポートには有効性・安全性・費用の評価に関する高いEBMがあり、レビュー・臨床報告以上に妥当である。よっておそらくこのレポートは、ホメオパシーに関する最近の科学的調査の中で、最も包括的かつ本格的であると言える。
スイスにおいてホメオパシーは長い伝統がある。ホメオパシーは医師と医師以外の治療家により診療されており、二つのホメオパシー病院がある(the Clinica Santa Cruce in Locamoの腫瘍専門科およびThe Aesukulap Clinic in Brunnenの一部)。しばしば需要は供給を上回り、長い順番待ちになっている。(p93)
スイスにおけるホメオパシー医療では、厳密に患者の個別性を鑑みて、症状の全体像から、シングル・レメディーを処方するという、クラシカルのアプローチが主流である。複合レメディーを用いるホメオパシー・アイソパシー・臓器レメディーを用いるホメオパシーは、ほとんど見られない。(p92)
興味深いことに、このレポートは、(シングル・レメディーの)複合調剤もしくはコンビネーション・レメディーの使用について、短期的使用ではあまり深刻でない急性状態を緩和するかもしれないが、長期的使用あるいは頻回使用においては症状の全体像をかく乱し、レメディーによるプルービングを誘発し、以後のクラシカル・アプローチによる治療をより困難にし得ると述べている。
ホメオパシーのレメディーは、ドイツのthe German Homoeopathic Pharmacopoeiaの製造法に従って調剤され薬局で販売されるか、スイスの専門的なメーカーから直接配送されている。
ホメオパシーについての研究は、植物や動物を用いた実験と、人間の細胞を用いたin vitroの実験があるが、そのような臨床前実験では、ホメオパシーのレメディーが調整機能をもつこと(バランスを整え、正常化するなど)が、示されている。(p19)
ホメオパシーの評価に関して、懐疑論者はしばしばRCTを要求する。しかしそれらが本当にホメオパシーの有効性を示せる方法であろうか?懐疑論者はまた、EBMに関する議論で、殊に心理療法のような、複雑な医療システムに適応可能かという問いの際、それを無視する。(p20)
レポートの28-29pに、RCTの妥当性に関する要点がリスト化されている。 ・RCTにおける陽性結果或いはいかなる結果の欠如も、陰性の証拠にならない。 ・RCTにおける陰性結果も、陰性の有効な証拠にならない。何故なら、多くの要因がRCTの偽陰性結果を起こし得るから。 ・有意な結果を得る為に、多くの患者が試験に参加する必要があるが、以下の問題がある。「グループにおける一人の人間を助けるため、自分にとって何の益もない薬を用いることについて、どれだけの人間が必要なのか?」という倫理的な問いの発生である。 ・「厳密な」RCTにおいてさえ、再現性は驚くほど低い。
ホメオパシーにおいては、クライアントの個別の症状の全体像に基づいてレメディーが正確に選択された時にのみ有効となる。プラセボ処方では、「内部的有効性」(「療法と研究結果の関係性の強度」:p32参照)と「外部的有効性」(需要のあるターゲット群への譲渡を指す)の両方ともが減じる。
従って「ホメオパシーの専門家は、ホメオパシーの臨床試験(RCT試験)の大部分が不適切な手法で指導され、試験計画はホメオパシーの原理を無視したものであり、これらが偽陰性結果を増やしている」と指摘するのだが、近年でもそのような研究が数件行われている。 それゆえ(しかしながら)、実際の世界情勢における、クラシカル・ホメオパシー治療の全体像を評価可能な疫学的研究が、より適切であろう。
HTAレポート編集に当たり、著者は認定ガイドラインに従って方法論の専門家・専門協会・諮問機関等と密接に連携した。(p48)
「ホメオパシー」というタームを用いて、22個のデータベース(p60)が検索され、23000項目が検出された。133件のRCT試験、296件の臨床試験、393件のレビュー/メタ分析論文、1件のコホート研究、59件のケース・スタディであった。(表6.3)
ホメオパシーの臨床効果における評価に関する文献検索により、60件のレビュー論文が確認された。そのうちで、事前決定された包括/除外規定を満たしたのは、合計667件の研究を分析した22件のレビュー論文だった。(p103)これら22件についての考察は、「現代医療に用いられる優位性基準は、翻案無しにホメオパシー研究について用いることが必ずしもできない」ことを明らかにした。
特にRCT法や二重盲検法は、実際の臨床を正当化できない。なぜならホメオパシーのような包括的手法は、患者が意識的にその療法を選択したことを想定しなければいけないから。従ってホメオパシーの場合、RCTの結果を実際の臨床に当てはめることは容易にできない(p112)。10件のレビュー論文がそのようなRCT法や二重盲検法を含んでいたので、レポートの著者は「偽陰性結果リスクがあまりにも高い」(p115)と判断し、これら10件のケースにおける有効性の格下げを却下した。
大部分の研究ではホメオパシー治療において重要な「外部的有効性」の要因が記載されていない。例として(p114)、 ・患者個人に即した処方 ・治療家の資格の評価 ・臨床パラメーターとQOLの明確な区別 ・「不利なイベント」の査定と適切なホメオパシー的評価(偶発的なホメオパシー的悪化、へリングの法則に則る症状の回帰、など)
よって「外部的有効性」を犠牲にして「内部的有効性」が優先されているので、これらの研究結果は実際のホメオパシー臨床に対して「ほとんど価値が無い」と結論づけられる。(p118)
にもかかわらず「22件のレビュー中少なくとも20件は、ホメオパシーの有効性を示した」と結論づけられた。レポートの著者は「5件の研究結果は、ホメオパシーの有効性をはっきり証明している」と判断している。(p117)
ホメオパシー的観点から付記すると「膨大なデータと陽性結果を含むが(クライテリアによってレポート考査から)除外されている幾つかのレビューや考察は、導入されたものよりもはるかに重要だった。これらの除外された論文はホメオパシーの陽性結果において、その有効性の仮説を明らかに裏付けている」と言える。(p124)
上部呼吸器感染症とアレルギー反応におけるホメオパシーの有効性に関する臨床研究
HTAは上部呼吸器感染症とアレルギー反応に対するホメオパシーの有効性についても、体系的に調査している。11件の個別処方例(クラシカル・アプローチによる)、4件の複合的処方例(プラクティカル・アプローチによる)、7件のコンビネーション・レメディー処方例、7件のアイソパシー例による、計29件の試験データが評価された。23件のみが「内部的有効性」と「外部的有効性」を査定可能だった。4件だけが、よい「外部的有効性」を示した。個人的処方をした1件が、現代医療よりホメオパシーが優位であると明示した。
「内部的有効性」と「外部的有効性」のデータが制限されていたにも関わらず、レポートの著者は、「この試験結果は上部呼吸器のアレルギーと感染症に関するホメオパシーの有効性の可能性を裏付けた」と結論づけている。
この著者は「Fries 達(1997)とFrei(2001)の研究の両方が、ホメオパシーによる治療群では抗生物質の使用量を明らかに減らせた」と記載している。Eizayaga とEizayaga(1996)による研究は、ホメオパシー治療をステロイド依存性の喘息治療と併用した場合、薬剤使用量を減らす効果と、薬剤による深刻な副作用を緩和する効果を示している。(中略)これらの結果は臨床的にのみ意義があるのでない、(中略)経済的にも有意義である。ホメオパシー治療はよりコスト削減効率がいいからだ。(p114)
幾つかの研究は、CAMを用いる患者の人口動態における特徴に注目している。CAM利用者には、以下の傾向がみられる。(p79) ・平均年齢は30歳~50歳代。非CAM利用者より若い。 ・女性が多い。 ・教育水準が高い。 ・収入が多い。
ホメオパシー支持者の多くが副作用が無いと主張しているが、レポートの著者は「あまりに頻繁に服用する場合のような不適切な使用は、望ましくない反応を引き起こすことがある」と強調している。
専門家でない人の処方により、かなり低いポテンシー(12C以下)のレメディーが用いられた場合、毒性の作用が起こりうる(たとえば、ヒ素・鉛・水銀など)。さらに著者はこう指摘する。 ・アイソパシー治療の研究では、初期悪化が24%程度見られた(1986、Reilly達)。これはおそらく、必要以上に頻回な服用による。 ・もしホメオパシー的に製造された物質が、標準的なコンビネーション・レメディー(コンプレックス・ホメオパシー)や同時処方(プラクティカル・ホメオパシー)で服用された場合、どれが望ましくない効果を起こしたか判断できない。従って、このような組み合わせは、避けるべきである。 ・どのホメオパシーのレメディーも、専門家や非専門家によって、不適切に用いられた場合、症状の抑圧や悪化を引き起こす可能性がある。(p160)
要約すると「スイスにおいて医療現場で用いられるホメオパシー療法は、専門的に施行された場合ほとんど副作用がなく、中・高程度のポテンシーの使用は、毒性や臓器への潜在的な影響がない」。(p162)
著者はSchueppel 達(2003)とMaxion-Bergemann達を引用する事で総括している。「現行の薬価を考慮すると、ホメオパシーの利用は薬剤費の支出を軽減しうる」「現時点でのデータはホメオパシー利用によるコスト削減の可能性を示唆している」。
「包括的かつ目的別に施行されたHTAレポートにより個別のCAMの影響が検討され、ホメオパシーにおいては殊に有効であり、スイス国内利用状況下においては安全であり、試験結果から判断される限りコスト効率も良いと確認された」(p3)